ギター塗装

ギターの塗装の役割

ギターの塗装には材の保護見た目の装飾の2つの役割があります。

木材の保護

エレキギターやエレキベースは一部のものを除いて木材から作られています。
未塗装の木材は水分等の影響による形状の変化や腐食、変色、虫害のリスクを持っています。木材の表面を塗装でコーティングすることで、これらのリスクから木材を保護して比較的安定した状態を長く保つことが出来ます。

見た目の装飾

世の中には様々なカラーのギターが存在し、同じ形状でも色が違うというだけでギターの雰囲気も変わってきます。
ギターはサウンドのみならず、ルックスでもステージを飾り観客を魅了してくれます。

塗装の種類

ギターの塗装には様々な種類があります。
使う塗料の種類や施工方法には限りない組み合わせや表現方法がありますが、ここではその一部を紹介します。

ナチュラル

木材そのものの木目模様や色味のまま透明な塗料でコーティングされた塗装仕上げです。
木地の状態がそのままの見た目で仕上がる為、塗り潰しのものよりも丁寧な木地調整が必要になります。加工時に付いた刃物傷やサンドペーパーの荒傷をキレイに消す作業はなかなか大変です。また、加工中に出てきた木材の割れや節を着色により隠すことが出来ないというリスクがあります。着色しないから簡単な塗装仕上げだと思われがちですが、実は難しい仕上げのパターンです。

シースルー

木目を隠さずに着色を施した塗装で様々な施工法があります。
トラ杢メイプルのギターをシースルーブルーに仕上げたい場合、サンディング層の上にスプレーガンで青を吹くか、木地着色で直接木材に色を染み込ませるか、はたまたその2つを組み合わせるかで仕上がりの見た目は大きく異なります。
木材との相性もありますが、施工法や色の組み合わせ次第で様々な雰囲気に仕上げることができます。

潰し塗装

木材が見えない状態に塗りつぶされたものをギター業界の一部では“潰し”と言い表します。
仕上がりの印象が木目の状態に左右されることがないので安定した見た目の品質に仕上げることが出来ますが、塗装中に糸くずのようなホコリやゴミが表面に付着して塗料と一緒に固まってしまうと目立つし取れなくなってしまうので、ゴミやホコリへの一層の配慮に手間のかかる塗装仕上げです。
大量生産が盛んな時期の個体は木目の分別を丁寧にしていない場合があるそうで、メーカーによっては潰し塗装を剥いてみたらトラ杢模様のメイプルが出てきたなんてこともあるようです。

3TS(スリー・トーン・サンバースト)

サイドの塗り潰しとボディトップ面の色の境部分は赤系のカラーで着色されています。色の境はスプレーガンで吹き分けるので、ある程度の塗装センスや技術がないと上手に着色することは難しいです。
ピックガード下は赤い塗料の着色が無い場合が多いので、Jazz Bassでピックガードを外して弾いている方を見かけた時には気にして見てみると面白いと思います。
こちらのカラーはラッカーやウレタンなど、メーカーやモデルのグレードによって様々な種類の塗料で施工されます。

グラデーション

複数のカラーを使用し、徐々に色が変化していくよう色を重ねて着色する塗装方法です。
木目を活かすシースルーグラデーションのものも存在します。直接木材に着色剤を染み込ませて色の境をぼかす方法や、スプレーガンによって色を吹き分ける方法があります。

特殊ペイント(グラフィック)

Epiphone/ G-310 EMILY the Strange

シルクスクリーン印刷、インクジェットプリント、水圧転写、ウォーターデカール、ドライデカール、ステッカー、デザインシート貼付け等の方法によりギター表面にイラストや模様を乗せる方法です。
デザインのデータ作成が必要となるものがほとんどでデータがあれば同じデザインのものを複製することが可能ですが、施工法に合わせた専用の設備や装置が必要となります。高品質な仕上がりを狙えますが、通常の塗装工程に加えてデータ作成料や施工料のコストが掛かります。

特殊ペイント(ラメ&ファイアーパターン)

blazingbird

ラメ塗装の上にファイアーパターンをキャンディ塗装した特殊な塗装です。
ラメ塗装はフレーク塗装とも呼ばれ、様々なカラーとサイズの種類があります。ステージ上でライトを浴びた時にラメ特有の煌びやかな輝きを放ちます
施工方法を簡単に書くと、下塗り→着色→ラメフレーク乗せ→中塗り(サンジング)→シースルー着色→トップコートとなります。ラメフレークはサンジング層に閉じ込める感じになります。

Frontisland ファイアーフレームラメ メンテ133

ファイアーパターンのギターは木目を活かしたシースルーのものやメタリックカラーのものなど様々なものが存在し、模様の配置と配色にデザインセンスが現れます。
配色やパターンの組み合わせでクールなものからアメリカンマッスルを彷彿させるものまで様々な表情を持たせることが出来ます。

こちらのギターは友人の工房で制作されたギターです。製作中の写真を頂きましたので掲載します。

ラメ・ファイアーパターン 制作過程1

ラメ・ファイアーパターン 制作過程2

塗料の種類

ギター塗装に使用させる塗料には多くの種類があり、その施工法も様々です。
ここではその中の一部の塗料について紹介します。

ラッカー (ニトロセルロース)

昔からエレキギターの塗装に使われてきた塗料です。
スプレーガンにて吹付を行います。耐油性に乏しく、ウレタンやポリ塗装に比べると乾燥後の塗膜は非常にデリケートなのでギターの管理や取り扱いには注意が必要です。

ポリのように厚塗りが出来ない為、塗膜は薄く仕上がる傾向にあります。
ラッカー塗装されたギターは経年変化により変色やひび割れ等の独特の風合いを持つ為、ビンテージタイプのギターはラッカーで塗装されている場合が多いです。
シーラーからトップコートまでラッカーで仕上げられたものは「オールラッカー」と呼ばれ、上塗り塗装がラッカーで仕上げられたギターは「ラッカートップ」と呼ばれます。

ラッカーサンジング

ラッカークリア(トップコート)

ウレタン (ポリウレタン)

ウレタン塗料には1液性のものや2液性のものと様々種類がありますが、ギターに使用されるのは主材と硬化剤を混ぜて科学的に硬化させる2液性のものが一般的で、スプレーガンにて吹付を行います。
ポリよりも薄い塗膜形成が可能で、ラッカーよりも塗膜硬度が高くて耐久性もあります。

ウレタン塗料は経年変化で黄変する物やし難いもの、塗膜硬度の違い等の種類があります。

ラッカーとは特性が大きく異なります。ラッカー塗装の上にウレタン塗料を吹付けた場合には相性が悪く、塗料が縮む等のトラブルが起きます。逆に、ウレタンの上にラッカーを吹付けるのは問題ありません。

ウレタンシーラー

ウレタンサンジング

ウレタンクリア(トップコート)

ポリ (ポリエステル)

主材と硬化剤を混ぜて科学反応により硬化する塗料です。
スプレーガンにて吹付を行います。一回の吹付で厚めの塗膜を形成する塗料で、硬化後は固い塗膜を形成します。

塗料にパラフィンが含まれたものを“インパラ”と呼び、含まないものを“ノンパラ”と呼びます。パラフィンとはロウソクの原料となる成分で、ノンパラに比べてインパラは塗装後の研磨性が良くボタっとした仕上がりになりにくい傾向にあります。しかし、吹き重ねのタイミングがノンパラよりもシビアとなり、タイミングを誤ると縮み等の硬化不良に繋がります。

安価なギターに使用されることも多い塗料ですが施工は難しく、上手く仕上げるにはノウハウを必要とします。その性質を理解した上で施工しないと密着不良や塗膜の縮み等のトラブルに繋がります。

オイルフィニッシュ

木材にオイルを塗って染み込ませる塗装法です。
表面に明確な塗膜を形成しない為、木質を活かした見た目と触感に仕上げることが出来ます。
塗装を行うための大がかりな機材を用意する必要が無い為、DIYで塗装をする場合にもチャレンジし易い塗装方法です。

オイルフィニッシュはボディ・ネック問わず施工されますが、特にネックグリップ部への施工は手触りの良さで好まれます。

オイルフィニッシュ用塗料にはワトコオイルやエキゾチックオイルが使用されます。

施工において重要なのは下地造りです。塗膜が形成されない為、木の表面がそのまま仕上がりの状態となります。加工傷やペーパー傷をきちんと処理する必要があり、色付きの塗料の場合は色ムラが目立つ場合があります。木工仕上げの段階で傷の無い状態に研磨した後にオイルを塗付して仕上げていきます。

缶スプレー塗装

ギターを改造するうえで誰もが一度は挑戦するDIY缶スプレー塗装については別のページにまとめています。
→“缶スプレーでのギター塗装ページ”へ移動する。

吹付ガン塗装機材

楽器店に並んでいるギターの多くはスプレーガンを使用した吹付による塗装法で施工されています。DIYでの作業も可能ですが、以下の機材が必要となります。

スプレーガン

スプレーガンにも色々種類がありますが、ギターの塗装には重力式のガンを使っている工場が多いかと思います。
DIYでガン塗装を行う場合、ガンの口径は1.3で下塗りからトップコートまで一通り対応出来ます。
スプレーガンの良い所はエアーの量、塗料の量、吹付塗料の形状(ノズルパターン)の調整が可能で、カラーの調合も自由に行えることです。着色塗料の希釈量も調合段階で調整可能なので、シースルー塗装やバースト塗装では缶スプレーでは表現できないカラーリングが可能です。

エアーコンプレッサー

空気を圧送するコンプレッサを選ぶポイントは電源電圧・タンク容量・オイル式orオイルレスタイプの3つのポイントで選択します。
電源電圧は100vと200vがあります。
空気の圧縮充填能力やタンク容量が使用用途に対して不足している場合、塗装の際の空気圧力が不足したりする恐れがあります。タンク容量は25L前後でギターの塗装は十分可能です。

圧縮機構の潤滑にオイルを使用したタイプがありますが、オイル成分が圧送するエアー内に入る場合があり、塗装面に影響を及ぼす可能性がある為、塗装にはオイルフリータイプが向いています。

エアーホース

ホースはスタンダードなタイプとソフトタイプとがあります。
ソフトタイプの方が高価ですが取り回しは楽です。

エアーフィルター

コンプレッサーのタンク、配管内では気圧の変化により空気中の水分が液化してして水分が溜まることがあります。液化した水分がエアーとともに圧送されないよう、エアーフィルターにて水分とエアーを分離させます。

エアブローガン

塗装前に塗装面のゴミ・塵・ホコリを吹き払います。

塗料・溶剤

塗料の種類で紹介したシーラー・サンジング・トップコートクリアの他にガンの洗浄液や着色剤等が必要となります。

アセトン(洗浄剤)

ガンの洗浄に使用します。
ガンの中で塗料が固まってしまうと吹付時に塗料カスが塗料に混ざったり噴霧パターン形状が崩れたりします。
吹付け後はあまり時間を置かずにアセトン等でガン内を洗浄します。

着色剤

着色剤は希釈して生地着色に使用したり、ラッカーや2液ウレタンのクリアに添加して吹付着色に使用します。

塗料添加剤

ウレタンの硬化は気温や湿度の状況で仕上がりが左右されます。
高温多湿の環境下では塗装面が白くなる“白化”という現象や、塗膜内に気泡が発生する不具合が起きやすくなります。
夏高温多湿の夏場の塗装には、塗料の硬化を遅らせるリターダーを添加することで白化が起きにくくなります。また、希釈用シンナーは季節ごとに設定されている場合も多いので、季節に合った希釈用シンナーを使用します。

吹付ガン塗装の作業工程

ギター制作における塗装作業は施工方法の種類や工程数がとても多く、その都度施工方法や手順は変わります。
ここでは塗装手順の一例を簡単に紹介します。

①材の漂白

杢目を活かしたシースルー着色には木地の色味が影響する為、仕上げたい色味によっては木材表面の漂白処理を行います。

漂白はハケ塗りで乾くまで放置というシンプルな方法です。漂白が甘い場合はこの作業を2~3回行います。
フレイム杢やキルト杢ののメイプル材で杢目を活かしたい場合に有効です。
吹き付けるカラーと木地色との相性が良い場合や、杢目の見えない塗り潰し着色の場合には漂白を行う必要はありません。

②木地着色

MG-X Frontisland (110)

木地の段階で着色を行うことで杢目を活かした仕上がりとする方法です。
フレイムやキルトメイプルの場合は杢目の濃淡を際立たせる効果もあります。
サンドペーパーによる下地処理が甘い場合には傷の部分に塗料が入ることによって傷が目立ちます。
木の具合によっては色ムラになることもあります。

③シーラー(ヤニ止め)

シーラーはプライマーの一種で塗膜の下地となる塗料です。
木材への塗料の吸い込みを防ぐ目的や、木材からのヤニの染み出しを抑える役割を持っています。
私はクリアタイプの2液性木工用シーラーを使用しています。

金属や樹脂等の非木材へ塗装を行う場合には、プライマーとして塗料の密着を良くするミッチャクロンの吹付が有効です。

④フィーラー(目止め)

木材の太い導管を埋めて木材表面を平面に整える作業です。導管の太いアッシュやマホガニーを平面仕上げとする場合に施工します。導管の目立たないバスウッドやアルダー、メイプルには施工しません。

フィーラー作業は“との粉”と呼ばれる粉末を水で練って布に取り、導管に擦りむかたちで行い、余分なとの粉は拭き取ります。
との粉は白や赤といった色味の種類があり、導管を目立たせない場合には木材と同系色のとの粉を使用します。アッシュ等は導管模様が特徴的なので、色付けしたとの粉を擦り込むことで導管を目立出せることも出来ます。

シースルー塗装の場合はシーラーの後にフィーラーを行うことで導管以外にとの粉が付着しにくいので綺麗に仕上がりますが、シーラー後にフィーラーを行うと導管が埋まりにくいというデメリットもあります。導管の目立つ木材で塗りつぶし塗装をする場合はシーラーの前にフィーラーを行うことで導管が埋まりやすくなります。

⑤サンディング吹付・研磨

中塗りと言われる吹付・研磨作業です。
塗膜を形成して細かな導管を埋めて平面を作る作業です。
数回重ね塗りを行い乾燥させた後、#400~#600番程のサンドペーパーで表面を平面に研磨します。研摩で塗装がむけてしまわないように注意します。

⑥着色(吹付)

吹付による着色工程です。
指板サイド等、着色しない場所には事前にマスキング処理を行ったうえでカラーを吹き付けます。

塗りつぶし着色

塗りつぶし塗装の場合、一度に厚塗りせずに何回かに分けて重ね塗りを行い、ムラや塗り残しが無い状態に仕上げます。使用する塗料は顔料系のカラーが向いています。

シースルー着色

杢目を活かしたシースルー着色には染料であるステイン系カラー又は顔料系カラーを希釈により濃さを調節してガンにて吹付着色を行います。こちらも一度に厚塗りしないように数回に分けて吹付けて色を合わせていくのが失敗しないポイントです。
木地着色と比べるとムラになりにくいというメリットがありますが、濃く塗り過ぎると杢目が目立たなくなってしまいます。

シースルー着色での色造りは簡単ではありません。
例えば、シースルーブルー(杢目が透けて見える青色)で吹付による着色を行う場合、青い塗料を木の色味が濃いメイプル材に吹き付けてもシースルーブルーにはなりません。単純に青を吹き付けた場合、下地の黄色と色が重なってシースルーグリーンに仕上がる傾向にあります。

青を濃くことや木地の色味を相殺するよう吹付カラーを調合すること、材の漂白や木地着色により木材の色味を抑える等の工夫が必要となります。

⑦トップコート

トップコートクリアを全体に吹き付けます。

トップにクリアの層が出来ることで、艶と深みが出ます。
この後、通常は次の工程⑧の水研ぎ研磨・バフ仕上げ作業に進みます。吹きっぱ仕上げの場合は次の工程は行いません。

艶消しの場合は艶消し専用のクリア塗料を吹き付けます。吹き付けた状態が仕上がりの状態ですので、ムラにならないように塗装しなければなりません。

⑧水研ぎ・鏡面研磨

トップコートクリアの表面をサンドペーパーで研磨して平面を形成します。
塗装面の状態にもよりますが#1000~#2000くらいの耐水ペーパーを使用します。研磨面に石鹼水を付けることにより、ペーパーの目詰まりを防ぐことが出来ます。石鹸水は多く付けすぎるとザグリ内の塗料の薄い部分から木材に浸み込んでクラックが発生する原因になりますので注意が必要です。

トップコートクリアを吹き付けて乾燥させた表面の状態です。
照明を反射させてみると細かな凸凹が見えます。

水研ぎを行った塗装表面は艶消しのような状態となります。
ペーパーの傷は、より細かなペーパーをかけて消していきます。
水研ぎの後はコンパウンドでの磨き作業が待っています。作業最低でも2000番以上で仕上げておかないと、磨いてもなかなか傷が消えません。

コンパウンドで磨いて水研ぎの傷を消して塗装面を鏡面に仕上げます。

コンパウンドでの磨き作業が終わったら、仕上げはワックスで塗装面を拭き上げます。

ギター工場では写真のようなバフ研磨機の大きいサイズのものに固形研磨剤を使って塗装面の磨き作業を行っています。

写真のような双頭グラインダータイプのものや、自動車用の電動ポリッシャー等、塗装面を研磨する電動工具を使用する場合、同じ部分を長い時間当てすぎると熱の影響で塗装面が荒れる“焼け”という現象が起きるので注意が必要です。

このページのまとめ

ギターの見た目のインパクトを大きく左右する塗装ですが、塗装を高いクオリティで仕上げるのは簡単ではなく、特出したセンスが無い限り失敗を繰り返して経験を積む必要があると思います。
施工法や手順の組み合わせはとても多く、DIYで気軽に施工できるものから、それなりの機材設備が必要なものまで様々で、塗料についてもホームセンターで入手できるものから専門的な店でないと取り扱いがないものまで色々です。

ギター用塗料はこのページで紹介した塗料以外にも多くの種類があり、それぞれ目的や仕上げに合わせて使い分けてられています。

塗料の成分は有機溶剤です。塗装する際には火気厳禁でマスクを着用し、適切な環境下で使用方法を守って作業しましょう。

関連記事