ポットとは、ギターやベースのコントロールやトーンに使用される可変抵抗です。
カーブの違いによる操作特性の違いをはじめ、スイッチ付きなどの複合的なポットまで様々な種類があり、それらを上手く組み合わせることで様々なコントロールパターンが作れます。
ポットとは
ギターやベースのボリュームやトーンに使用される可変抵抗です。
抵抗とは電気を流れにくくする電子パーツで、電気の流れにくさは数値で表されます。その数値は大きい程電気を流しにくくなります。
ギターで多く使用されるのは500kΩや250kΩのポットです。
250kポットの場合、コントロールのノブ位置に応じて0kΩ~250kΩまでの範囲で抵抗値を変化させることによりギターのボリュームやトーンを調整しています。
ポットの仕組み・構造
ポットの中身を見る為にCTSの250kのポットを分解してみましょう。
こちらのポットは裏面がフラットのポットですが、CTSポットには裏面にくぼみと“へそ”があるビンテージタイプがあります。
へそ付きのビンテージスタイルの方がノブの回転トルクは軽い傾向にあります。
ポット上部の爪4か所を起こすと簡単に分解出来ます。
カバー部分の底にオレンジ色のグリスが見えます。
このグリスを撤去することでCTSポットの回転トルクは軽くなります。
分解して拭き取る方法や、分解せずに灯油に漬け込んでグリスを溶かす改造法が存在します。
ハンダ付けの際に過度に熱を与えすぎるとグリスが溶けて流れて回転トルクが変化することもあります。
金属製のカバーは外部からのノイズをシャットアウトするシールドの役割がある為、必ずアースに接続します。
写真左の黒い部分が抵抗体です。左の端子と右の端子は抵抗体を挟んで繋がっています。
真ん中の端子はシャフトのベースに付いている金属版(摺動子)を介して抵抗体と繋がっており、シャフトを回転させることで接点位置が変化する仕組みです。
ボリュームノブを操作した時に“ガリガリ”とノイズが入る場合には、抵抗体と金属版の接点が汚れている可能性があり、清掃によって改善する場合もあります。
ポットの内部をイラストで表すとこんな感じです。上から見た状態で左側が1番端子となります。
中心の黄色いシャフトを回すと金属版(摺動子)が回転します。
500kBカーブの場合、Ⓐの①②間の抵抗値は0Ω、②③間の抵抗値は500kΩとなります。
Ⓑの①②間と②③間は共に250kΩとなります。
ポットの抵抗値の調べ方
表記が無い等でポットの抵抗値が分からない場合、①の端子と②の端子間の抵抗値をテスターで測ることでポットの抵抗値を調べることが出来ます。
写真のポットは0.554MΩなので、キロに変換すると554kΩのポットというということが分かります。
※計測したものは500k規格のポットです。
私はデジタルタイプを計測用、アナログタイプをピックアップの位相確認やポットの動作確認に使用しています。
アナログのテスターはギターの配線作業には必須です。
カーブの違い
ノブの操作に対する抵抗値の変化率の違いを“カーブ”と言い、規格別にアルファベットで表されます。ギターでは主にAカーブとBカーブを使用します。
ポットのカーブをグラフに表すとこのような感じになります。
始めに言っておきますが、このグラフはノブの操作に対する抵抗値の変化であってボリュームやトーンの変化量を表したものではありません。
Bカーブの抵抗値がノブの操作に対して一定に推移するのに対し、AとCカーブは抵抗値の変化が変則的です。
電気的な変化と人間の感じる音量の変化は比例関係ではない為、人間の聴覚で音量変化が自然に聞こえるよう変化率を補正したものがAカーブであり、Cカーブはその逆の特性を持っており、左利きのギターのコントロールに用いられます。
実際に耳で聞いた時にはAカーブの変則的な変化の方がノブの操作に対する音量の変化が自然に聞こえる為、楽器に限らず音量の調整にはAカーブが使われることが多いです。
ポットのカーブの選び方
ギターのボリュームやトーンにぞれぞれどのカーブを使うか決まりは無く、メーカーやビルダーによってAカーブを使っていたりBカーブを使っていたり様々です。
カーブを変えて変化するのはノブ位置による変化率の違いであり、音質そのものは変わりません。
ボリュームポットのA・B特性
ギターのボリュームの場合、Aカーブの方がノブの操作に対しての音量変化が自然に聞こえる為、ギターのボリュームを全域でコントロールする場合にはAカーブが向いていると言えます。
ギターのボリュームは基本全開で、必要に応じて少し下げて微調整するような使い方をすることが多い場合にはボリュームにBカーブを使用することで扱いやすいコントロールとなります。
ギターやベースの場合、ボリュームは基本全開で使用することが多いので、AでもBでも使い勝手が良さそうな方をチョイスすれば良いと思います。
私はF社がボリュームにAカーブを採用し、G社がボリュームにBカーブを採用する傾向にあるという印象を持っています。
トーンポットのA・B特性
Aカーブがトーン用だという説とBカーブがトーン用だという説があり、どちらが本当なのか悩む方は多いと思います。
ギターメーカーの多くがトーンポットにAカーブを採用するモデルが多い反面、パーツとして単体で売られているBカーブポットはトーン用と記載されることがありす。
結論から言うと、AカーブBカーブどちらを選択したとしても使用目的に合っていれば間違いではありません。
トーンコントロールは高音域をどれくらいアースへ逃がすかを調整するボリュームコントロールです。
トーンにAカーブ使った場合もボリュームと同様にノブの操作に対してトーンの変化が比較的自然に聞こえる為、トーンを全域でコントロールする場合にはAカーブが向いていると言えます。
Bカーブをトーンに使った場合にはトーンの効き始めのポイントが後ろにズレて急激に変化する操作感となる傾向にあります。トーン変化が感じられない領域が多いので、AカーブからBカーブへ変えた場合には慣れるまで扱い辛いと感じると思います。
カーブの選び方まとめ
①ボリュームポットは自分のプレイスタイルに合わせて選ぶ。
②トーンコントロールを扱いやすくしたい場合にはAカーブを選択する。
ポットの抵抗値
ポットの抵抗値はピックアップに合わせて選択することでスタンダードなギターサウンドとなります。
複数のピックアップを混載する場合には抵抗値の高い方に合わせる場合が多いです。
以下、ギターやベースに使用される主なポットの抵抗値を紹介します。
250kΩ
3シングルのストラトキャスターのように、シングルピックアップのギターには250kΩのポットが使用されます。
レオフェンダーさんがエレキギターのコントロールに250kΩを採用したことが現在の基準となっています。
300kΩ
P90と相性が良いとされています。
ハムバッキングピックアップを搭載したレスポールモデルは500kΩのポットが使用されることが一般的ですが、年代によっては300kΩのポットが使われています。
500kΩ
ハムバッキングピックアップの載ったギターに使用されることが多いです。
ハムバッキングピックアップは構造上シングルピックアップに比べて高音域の成分が少ない為、抵抗値を高めに設定して高音域の損失を抑えています。
25kΩ・50kΩ
ローインタービンスなアクティブピックアップのコントロールに使用します。
1MΩ
ジャズマスターや、一部のテレキャスターに使用されます。
ポットの抵抗値を変更してギターのサウンド特性を変化させる
ギターのサウンド特性を調整したい場合にはポットの抵抗値を変更します。
全体的にマイルドな感じにしたければ数値を落とし、広域を明瞭にしたければ抵抗値を上げることでギターの持つサウンドキャラクターのコントロールが可能です。
抵抗値を変えるとなぜサウンド特性が変わるのか
ギターのコントロールは引き算です。ピックアップの信号をどのようにアースへ落とすかでホットに出力されるサウンドが決まります。
ハイパスコンデンサの付いていないボリュームポットの場合、ボリュームを下げた時に音がこもる傾向にあります。
ピックアップ信号はアースへの抵抗値を下げると高音域からアースへ逃げるというイメージを持っておくと理解しやすいと思います。
ボリューム全開状態では2番と3番が0Ωで抵抗無く電気を流す状態ですので、3番に入力されたピックアップ信号はジャックのホット端子側へ出力されます。
3番に入力されたピックアップの信号は、500kΩの抵抗によって1番端子のアースへ流れにくくはなっていますが、500kΩのキャパを超えたピックアップ信号はアースに流れることになります。
ピックアップ信号は高音域側からアースへ流れる性質がある為、ポットを500kΩから250kΩへ交換すると、ボリューム全開でも高音域の成分がより多くアースへ流れやすくなり、結果としてギターのサウンドキャラクターは高音域が抜けたマイルドなものに変化します。
トーンポットも500kΩよりも250kΩの方が信号がアースへ逃げやすい為、高音域が抜けやすくなります。
他のパーツとの兼ね合いもある為、ポットの抵抗値の変化による高音域の変化が体感できる範囲のものかどうかは組んでみないと分かりませんが、どのようなサウンドキャラクターにしたいかという点で抵抗値の選択は重要なポイントです。
メーカーでもデフォルトでシングルピックアップのベースで500kのポットを使ったり、ハムバッカーを載せたギターで300kΩを使ってるモデルが存在します。
抵抗値の選び方まとめ
①基本はピックアップに合わせる。
②高音域のロスを無くしたい場合は抵抗値を上げ、マイルドなサウンドテイストにしたい場合には抵抗値を下げる。
サイズ規格
インチ規格とミリ規格
ポットにはインチ規格とミリ規格があります。
ミリ規格のポットからインチ規格のポットへ変更する場合、写真Ⓐのノブ取付部のサイズ(ギザギザの山の数)が変わる為、圧入式のノブの取付が出来なくなる場合があります。
また、ノブ取付部はギザギザの無いソリッドタイプも存在しますので、使用するノブとの互換性があるものを選択する必要があります。
Ⓑ部ネジ径も違う為、ミリ規格からインチ規格へ変更する場合には取付穴の加工が必要となる場合があります。
特に理由が無い場合には同じ規格のポットを選択することで交換作業がスムーズになります。
250kΩミリ規格ポット
500kΩミリ規格ポット
本体のサイズ
スタンダードな大きさのものと写真右側のミニサイズのものが存在します。大きさが違うだけで機能は同じです。
ポットやスイッチ等の配線パーツが収まる空間を“コントロールキャビティ―”と呼びます。
もともとミニサイズのポットが収まっていた空間にノーマルサイズのポットを入れようとしてもキャビティとのクリアランスに余裕が無くて収まらないことがあります。
ポットサイズを変更したい場合には写真のようにキャビティ加工が必要となることがあります。
ギターのデザインによっては加工が不可能な場合もあります。
ミニサイズポット
狭いコントロールスペースに収まりが良い本体が小さなタイプです。
CTSビンテージスタイル
ギターのポットといえばCTSが有名でバリエーションも豊富です。
そのCTSポットには、ポットの裏面がくぼんでいて、真ん中にシャフトの先端が貫通している通称“へそ付き”と呼ばれるビンテージスタイルのポットが存在し、へそ無しCTSポットと比べるとノブの回転トルクが軽いと言われています。
配線方法
こちらの配線図は1ピックアップ、1ボリューム、1トーンの配線図です。
ポットは裏から見た状態です。
同じピックアップ数やコントロール配置でも配線の取り回し方には幾つか方法がありますが、こちらの図はそのうちの一つです。
ピックアップのレイアウトやコントロール方法で配線の取り回しは変わります。自分で配線パターンが組み立てられない場合にはピックアップの付属の配線図やネット上にある配線図を参考に配線作業を行います。
ボリュームポットの配線
ボリュームポットは3番へピックアップ信号を入力させ、2番からジャックのホット等へ出力させるのが基本です。
ジャズベースのように2番と3番を逆に繋ぐ場合もあります。
トーンポットの配線
トーンポットはピックアップ信号の高音域をどの程度コンデンサでアースへ逃がすかコントロールします。
トーンポットの3番端子へは何も接続しません。
コンデンサの繋ぎ方には様々な取り回し方がありますが、効果はどれも同じです。
配線方法はピックアップレイアウトやコントロール方法により変わる為、ピックアップ付属の配線図やネット上の配線図を参考に考えてみましょう。
配線図サンプルは別ページで紹介しています。⇨配線図を見る
スイッチ付きポット
スイッチ機能が付いたポットです。
ノブの上下でスイッチを切り替えるプッシュ・プルタイプとノブを押し込むごとにスイッチが切り替わるプッシュ・プッシュタイプがあります。
イラスト上段はプッシュ・プルタイプのスイッチ付きポットです。
ノブを引き上げるとスイッチが切り替わり、色付けした端子同士が通電します。
イラスト下段はフェンダーのS1スイッチポットです。
バランサーポット
ピックアップの出力バランス調整やハイカット・ローカットのコントロールに使用します。
1軸で2つの抵抗回路をコントロールする1軸2連ポットです。
1軸2連のポットにはステレオボリュームコントロール向けのポットやバランサー向けのポット等の種類があります。
イラストはMN型の1軸2連ポットのピックアップ出力をイメージとして記したものです。
バランサーポットと呼ばれるものは1軸2連のMN型ポットを指すことが多く、MN型の特徴としてはノブがセンター位置にある状態ではそれぞれのピックアップ出力は100%となり、それぞれノブの可動域のセンター位置から出力が変化するような構造となっています。
ステレオボリュームコントロール向けの1軸2連ポットは一般的にギターで使われているポットを2つ重ねて一つの軸でコントロールを行う構造のもので、センター位置では出力が100パーセントにはなりません。
ですので、バランサー配線を行う場合にはMN型の1軸2連ポットを使用します。
バランサーポットを使用した場合、合成抵抗の関係上ホットとアース間の抵抗値が低くなる為、高音域が弱くなったりパワー感が無くなる等の音質変化が起きることがあります。そのような場合にはバランサーポットやマスターボリュームのポット抵抗値を上げることで改善されます。
ボリュームのバランサー配線例はこちら
⇨ジャズベース バランサーポット配線図
ベースのコントロールで見かける1つのノブでハイカットとローカットをコントロールする配線についてもMN型のバランサーポットを使用します。
ハイカット・ローカットコントロール配線例はこちら
⇨ハイカット・ローカット バランサーポット配線図
1軸2連 デュアルポット
バランサ―と同じ1軸で2つの抵抗回路をコントロールする1軸2連ポットですが、こちらは一般的にギターのボリュームのコントロールに使われるポット2つを1つの軸でコントロールする構造のポットです。
2つの抵抗体の抵抗値が同じ値のものはステレオボリュームコントロールとして使用されたりします。
ギターでは500kと250kの組み合わせで下記のようなコントロール配線が可能です。
デュアルポットの配線例です。
例えば、3シングルのギターがあったとしてリアだけハムバッキングピックアップに換えたいと思ったとしましょう。
シングルの場合はコントロールが250Kのポットで組まれていることが大半です。250Kのポットのままハムバッキングピックアップを配線すると高音域が目立たないサウンドになるのでハムバッキングピックアップ本来のサウンドが出ません。
この場合、一般的にはボリュームもトーンも500kのポットに交換してしまいますが、そうすると今度はシングルピックアップが高音域の目立つサウンドとなり、今まで気に入っていたフロントとセンターのマイルドなトーンが無くなってしまいます。
どちらも犠牲にしたくないという場合にはデュアルポットが有効です。
イラストのコントロールは1ボリューム+1トーン+ピックアップセレクターというシンプルなコントロールです。
シングルピックアップを選択している時は250kポット+473コンデンサ回路を使用し、ハムバッキングピックアップを選択している時は500kポット+223コンデンサ回路に切り替わります。
シングルピックアップとハムバッキングピックアップのそれぞれのサウンドトーンを活かすコントロール配線です。
2軸2連 スタックポット
写真をご覧ください。ノブが2段になっています。
限られたスペースに多くのコントロールノブを配置したい場合に有効なのがスタックポットです。
コンセントリックポット、デュアルポットとも呼ばれます。
上下の2つの軸でそれぞれの抵抗回路をコントロールする2軸2連ポットです。
イコライザー機能の付いたプリアンプ搭載のベースのコントロールで見かけることが多いスタックポットですが、1つのポット取付スペースで2つ分のコントロールを設置することが出来ます。
通常のボリュームやトーンをコントロールする場合はセンタークリック無しのタイプを使用するのが一般的です。
プリアンプのコントロールではセンタークリック付きのタイプを使う場合があります。
上の写真はモントリューのデュアルポットとゴトーのVK15T&18Tの組み合わせです。
2段積み状態のノブの高さは25㎜くらいになります。
ちなみにモントリューのデュアルポットなどは抵抗体の組み換えで上下の抵抗値の変更が可能です。
センタークリックは中に入っているセンタークリックボールを摘出することでキャンセルすることが出来ます。
※分解・改造は自己責任でお願いします。
ポットのまとめ
ポットには形状と特性・機能に多くの種類があります。
どのようなピックアップレイアウトのギターやベースを、どういう感覚でコントロールしたいかをイメージしてポットを選んでみると良いのではないかと思います。
寸法的な部分は他のパーツとの兼ね合いを確認しましょう。
操作感について、感覚的な部分は実際試してみないと分からないと思うので、試す機会を作って試してみましょう。