缶スプレー塗装

ギターの塗装というものはギターに適した塗料をそれなりの塗装機器を使って作業を行うものですが、このページでは塗装機器が無い状態で缶スプレーのみで既製品に近い仕上がりクオリティーを目指して塗装を行った塗装方法と、その仕上がり具合を紹介しています。
上の写真は木地状態のギターです。このギターを缶スプレーで塗装しました。

缶スプレーで塗装したギターの紹介

缶スプレーによるギター塗装は個人的にも過去に何本か挑戦してきました。
ホームセンターや、カー用品店で購入可能な市販の缶スプレーで個人的にこれまで一番上手く仕上がった塗装方法を紹介します。

Frontisland 塗装の写真 (9)

写真のホワイトトップのギターは塗装機材が無い時期に全て缶スプレーで自宅で塗装したものです。

Frontisland 塗装の写真 (28)

カラーはホワイトパールです。写真では分かりずらいかもしれませんが、鏡面仕上げとなっています。

Frontisland 塗装の写真 (27)

サイドとバックは黒です。
製作は2015年です。この写真は2021年に撮影したものなので6年経過しています。
経年変化でヒケはあるものの、レゴ人形の映り込み具合は良い感じです。

Frontisland 塗装の写真 (21)

ネックグリップ部分はバーストさせて木目が見えるようにしてみました。
シースルーにしたかったのですが、塗料が透けないのでバーストさせてそれらしく見せています。
70デニールくらいの透け感を狙っています。

缶スプレーでDIY塗装方法

缶スプレーで店頭に並ぶ既製品のような仕上がりクオリティーを目指した上記ギターの塗装工程を紹介します。
ポイントは既製品同等の作業工程を踏むことと、2液性の缶スプレーを使用することです。

1.下地造り

塗装で一番大事なことは塗装前の下地造りです。塗装面の平面出しや傷取り等の表面処理が甘い場合、綺麗に仕上がらないどころか後の作業は失敗に終わります。

リフィニッシュで一旦塗装膜を剥がす際には塗膜下の木の表面に大きな傷が付かないように注意が必要です。大きな深い傷はサンドペーパーでは取りにくく、手作業で広い面を整えるのはとても大変です。木地の仕上げにはランダムサンダー等のツールがあると作業性が良いです。

既に塗装された既製品の塗り直し塗装を行う場合、既存の塗装を剥がさずに上塗りしてしまうことも可能です。その場合、オーバーコートした塗料分だけ塗膜が厚くなるということと、万が一塗料の相性が悪い場合には塗装が縮んだり乾燥後に剥離してしまう等のリスクがあります。

塗装膜の上に重ね塗りする場合には足付けを行います。
足つけとは、塗装表面をサンドペーパー400番程度で均一に荒らして(傷を付けて)塗料の喰いつきを良くする作業のことです。

2.下塗り

木工用プライマー吹付イメージ

シーラーとして、ホームセンターで購入可能な缶スプレーの木工用プライマーを吹きつけました。
塗装の下地として吹き付けることで上塗り塗料と木材との密着性を高めるものです。
吹付後にペーパー掛けを行う必要は基本的にはありませんが、木がケバ立つ場合は軽くペーパー掛けして再度プライマーを吹きます。

イラストの木材の凹凸は木の導管をイメージしています。アッシュやマホガニーの導管はプライマーでは埋まりません。

3.フィーラー(目止め)

との粉塗布イメージ

との粉でマホガニーの導管を埋める目止め作業を行います。
マホガニーやアッシュのように導管が太い木材で、表面を平面に仕上げたい場合には必要な作業です。メイプルやアルダーのように導管が目立たない木材には必要ありません。

シーラー塗装後に施工することで導管を際立たせることが出来ますが、塗り潰し塗装の場合はプライマーを吹く前に施工した方が木材への密着性が良く導管が埋まりやすいです。

粉状のものを水に溶いて練り、布で塗り付けるように導管に塗り込み、新しい布で余分なとの粉を拭き取ります。
との粉自体に接着性や硬化性は無い為、乾燥後も水拭きで拭き取ることは可能です。
施工後はよく乾燥させます。

4.サンディング

サンディング吹付イメージ

サンディングには表面の小さな凸凹を埋めて平面を作る役割があります。木材表面の駒かな導管や、目止めで埋まり切らなかった導管をサンディング塗料で埋めて平面を作ります。

サンディング塗装として使うのはホームセンターやカー用品店で購入することが出来る自動車補修用の2液性ウレタンクリア缶スプレーです。本来はトップコートに使用するものですが、サンディングに必要な肉厚と強さを持たせたい場合には有効です。
2液性の缶スプレーは吹付口の反対側シャフトを押し込むことで2つの液が混ざる仕組みとなっています。2つの液が混ざり化学的に硬化して塗膜を形成します。ホームセンターで多く見かけるアクリルラッカーの缶スプレーとは塗膜強度も耐久性も別物です。

しっかりと艶が出るくらいの量で垂れないように全体を均一に塗装します。
インターバルをおいて指触乾燥状態になったら、さらに塗り重ねを行います。

この作業を繰り返して缶を1本使い切ったら十分に乾燥させ、#400程度のサンドペーパーで塗装が剝けない程度に軽く全体のペーパー掛けを行います。
との粉で埋まり切らない導管が完全に埋まるまで吹付・研磨を続けて最終的に塗膜で材がコーティングされた状態で表面が#400~#600程度に均されている状態を作ります。どうしても塗料で埋まらない大きな穴は瞬間接着剤を部分的に盛ってペーパー掛けを行い平面を出します。
私はウレタンクリアを4本使いました。

5.着色

着色吹付イメージ

着色は車用カラースプレーで行いました。
色を乗せない部分には忘れずにマスキング処理をします。
厚塗りしないように数回に分けて吹付を行い、下地が見えなくなるまで重ね塗りをします。
ホワイトトップのギターはホルツの日産車用ピュアホワイトをベースに吹いた後にトヨタのホワイトパールクリスタルシャインを重ねています。

サイド・バック面はホルツのファッションカラーで着色しました。

キャンディー系スプレーの本来の用途は下地にメタリックを吹いた上に透明感のあるキャンディーカラーを乗せることで深みのあるメタリックカラーに仕上げるというものです。
透明感があるのであれば杢目が見えるシースルーになるかと思いましたがムラになって上手くいきませんでした。上手な方は出来るのかもしれませんが、缶スプレーでのシースルー着色は難しいです。

6.トップコート

トップコート吹付イメージ

着色が終わったらトップコートクリアの吹付けをします。
トップコートはサンディングと同じ2液性のウレタン缶スプレーを使用します。

塗装のセオリーとして、ラッカーの上にウレタンを塗装してはいけないというのがあります。2液性ウレタン缶スプレーは同社カラースプレーの上塗り用スプレーとなっています。ニトロセルロースを素材としたカラースプレーの上に化学反応で硬化する塗料を上塗りして縮み等のトラブルが起きないのはすごいですね。

トップコートの吹き始めは厚く吹かないことが上手く塗るポイントです。
厚く塗り過ぎると塗料に含まれる溶剤成分がカラー層を溶かして色が流れることがあります。
始めは軽く吹いてカラーの層をコーティングした後、垂れない程度に肉厚を持たせて吹付けを行うと上手く塗ることが出来ます。

クリアの後は研ぎと磨き作業を行いますので、クリア層はある程度の肉厚を持たせる必要があります。私は3本分吹付けを行いました。

7.水研ぎ・研磨

水研ぎ研摩イメージ

トップコートを吹き付けただけの塗装表面の状態はダクダクしていたりツブツブしていたり艶が足りなかったりムラがある場合があると思います。
これから塗装面全体を均一な艶で鏡のような面に仕上げていきます。
研摩作業を行う前には十分に乾燥期間を置きます。

塗装面の状態にもよりますが、#1000~#2000のサンドペーパーで表面を平らに研磨します。
細かな番手のペーパーは目詰まりが起きやすい為、研磨面に石鹸水を付けて研磨作業を行います。
これは水研ぎと呼ばれる作業で、耐水サンドペーパーを使用します。

注意点は研磨のし過ぎによって塗装を剝いてしまわないようにすることです。
カラーの層まで削ってしまって色が剝けてしまってはこれまでの苦労が台無しです。
クリアの塗装の表面の凸凹が取れて均一になったら、ペーパーの番手を細かくしてペーパー傷を取っていきます。

8.バフ掛け

ペースト状の研磨剤で磨き上げる作業です。
布に研磨剤を付けて水研ぎした塗装面を磨いていきます。
研摩材は液体コンパウンドを使用します。ピカールも有効です。ペーパー傷が消えて全体に艶が出るまでひたすらひたすら磨きます。この作業はとても大変です。

手作業での磨き作業はとても大変です。工場や工房では高速回転する布に研磨剤を付けたもので磨き作業(バフ掛け)を行っています。

機械でなんとかしたいという場合にはポリッシャーがあると作業性が良いです。ランダムサンダー・ポリッシャーは木の研磨から塗装の磨きまで行えるので、ギターの塗装をしたいという場合にはあると便利なツールです。全てを機械頼りにすると上手くいきませんので、機械に頼る部分と手で仕上げる部分とをうまく使いわせて作業を行う必要はあるかと思います。

9.ワックス掛け

全体のペーパー傷が取れ、艶のある状態になったらワックスで仕上げます。
ワックス掛けを行うと細かな傷は目立ちにくくなります。

10.塗装完了

Frontisland (LP type Guitar) (1)

(JK AT-Custom)

以上、市販の缶スプレーを使った塗装で私が試してきた中で一番うまく仕上がった塗装工程です。

今回のようにボディの表と裏で色を分ける場合などにはマスキングテープを用いて塗料をのせない部分をマスキングします。直線的な部分は一般的な建築用マスキングテープで対応出来ますが、ボディトップ面のセルバインディング部分は曲線に対応したマスキングテープを使用することで綺麗に仕上げることが出来ます。

缶スプレー塗装まとめ

ホームセンターで見かけるアクリルラッカーの缶スプレーで塗装してみたこともありますが、塗膜が弱くて綺麗に仕上がりませんでした。耐久性が弱く、ギタースタンドに立て掛けておいたら短い期間でスタンドにくっついてしまったなんてこともありました。

缶スプレー塗装を色々試して最終的に辿り着いたのが今回紹介した2液性のウレタン缶スプレーを使う方法です。パッと見た感じでは既製品に近い仕上がりにすることは出来たと思います。
完成時の塗膜硬度は低めで柔らかい感じがありましたが数か月経って気にならないレベルまで改善されました。高硬度ウレタンやポリ塗装のような強靭な塗膜硬度にはなりません。

このギターの製作において、私の技量では缶スプレーでシースルー塗装が吹けないという部分に限界を感じたのでコンプレッサーや塗装用ガン等の塗装機器を揃えることにしました。

ギターの塗装について紹介しているページはこちら → エレキギターの塗装について

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