このページではギターやベースのボディやネックに使用されている材料と特徴についてを筆者の主観をもとにまとめています。ギターやベースの購入やオーダーを検討している場合には、木材についての知識を持つことで自分が理想とするギターがより明確になると思います。

1.ギターは何から出来ているか?

一般的に多く流通しているエレキギターやエレキベースのボディ・ネックの材料には木材が使用されています。その他には合成樹脂やグラファイト、アルミ等の金属などがあります。

ギターの素材が何であろうとギターとして成り立っていればOKなので、世の中には色々な素材のギターが存在します。

2.材料の違いによる特徴の違い

材料の違いによる特徴の違いとしては、大きく4つに分類されます。

① ギター本体のサウンド特性
② ルックス(見た目)
③ 加工性・作業性
④ 安定性

① ギター本体のサウンド特性

同じ形状、同じ仕様のギターでも木材の種類が変わるとギターそのもののサウンドキャラクターは違うものとなります。同じ木種でも個体差がある為ばらつきはありますが、木材の種類からサウンドの特性はある程度の推測が可能です。個人的な印象ですが、硬い木はアタック感が強く、柔らかい木は温かみのあるトーンで中低音が響く傾向になります。

ギブソンのレスポールのボディはトップ面側にメイプル、バック側にマホガニーという違う木材同士を張り合わせて作られています。このように、音響特性の違う材料を組み合わせることでサウンドトーンの調整を狙うことも可能です。

塗装が塗りつぶしの状態で木材が目視で確認出来ない場合もありますが、カタログ等には材料の記載があります。

合成樹脂のような素材の性質が安定している物から作られたギターは、量産時のサウンド特性のばらつきは少なく安定しているという特徴があると言われています。

② ルックス(見た目)

Frontisland.SQ

(Frontisland“04” 塗装中の写真)

杢目を活かしたシースルー塗装のギターの場合、素材の木の模様が見える状態となります。
同じメイプル材においても杢無しの物からトラ杢やキルト杢のように杢のハッキリ出ている物まで様々あり、杢によってギターの持つ雰囲気は変わってきます。

アッシュやマホガニーは導管が太くハッキリているため、塗装工程で導管に色を入れて模様を出す手法が使われることがあります。上の写真のベベルドカット部分はアッシュ材の導管に黒のフィーラー処理をし、導管を目立たせています。

木材の違いは仕上げの色味にも関係してきます。
例えば、明るいシースルーブルーカラーのギターを造りたい場合、メイプルのような白みがかった木材であれば再現可能ですが、マホガニーのような赤みがかった素材の場合は再現が困難となります。素材の赤みを打ち消す為にカラーを濃く吹き付ける必要がある為、シースルーブルーにしたい場合には暗めの色味に仕上がります。

欲しいサウンドトーンと欲しいルックスが違う材料となる場合には、トップ面に化粧板という薄い材料を貼り合わせる方法があります。

③ 加工性・作業性

(Frontisland JK-A.T. Custom 製作中の写真)

材料によって加工性が変わります。
バスウッドは柔らかく切削、研磨加工がしやすい材の部類となりますので大量生産やDIYに向いている材と言えます。
ハードメイプルやエボニーのように固い材料はDIYでの加工は大変で、加工機械がない場合には根気と情熱が必須です。

材料によって塗装の工程、仕上げ方も変わります。
アッシュのような導管が太い材について、塗装面を平面艶有仕上げにしたい場合には導管を埋める作業が必要となります。「との粉」を導管に擦りこむフィーラーという作業となります。この作業はメイプルやアルダー等の材では行いません。

塗装の仕上げについて、指板を例に例えるとローズやエボニーの場合は塗装無しのオイル塗付のみの仕上げとなっていることが多いですが、メイプル指板の場合には指板面まで塗装がしてある場合が多いです。メイプルは塗装して表面を保護しておかないと汚れが付着してすぐに汚れてしまいます。また、塗装しない場合には木の内部のヤニが表面に染み出てきたりする場合もあります。工業製品としての一定以上の品質を保持する為には木材に合わせて適切な仕上げ処理が必要となってきます。木材に合った塗装処理をすることで、長期的に安定した品質を保つことが出来ます。

木材以外でギターを製作する場合、素材によって加工性や作業性、必要な道具は変わってきます。

④ 安定性

ギターのネックは使用環境や経年変化により新品の状態から反りの状態は変化することがありますが、木材の種類によって反りやねじれが出やすい材と出にくい材があるとも言われています。
フレイムメイプルネックは美しいフレイム模様が特徴的で好まれますが、比較的狂い(反りやねじれ)が出やすい材でもあり、適切な乾燥と加工工程が必要となります。
木材で作るうえでギターのネックが完成後に全く反りが変化しないようにするのは困難だと思います。良い状態が長く続く反りの変化に合わせてトラスロッドを調整する等の定期的な調整は必要です。

ネックが柔らかい材の場合、トラスロッドのストッパー部分が潰れてロッドが効かなくなる場合があります。こうなってしまうとギターとしての性能が低いものになってしまうので、力の掛かる部分には力に耐えうる構造と材質の選定が必要となります。

合成樹脂や金属等で作られたギターは木材のように性質のばらつきが無い為、変な反りが出にくいと言われています。が、非木材で製作されたネックで状態の悪いネックを見たことがある為、非木材の全てが長期間良いコンディションをキープできるというわけでは無いものと思っています。

3.木材の種類と特徴

エレキギター、ベースに使用される木材を一部掲載致します。
同じ木材でも杢目は個体差によって異なります。

バスウッド [BASSWOOD]

ボディ材として使われることが多い材です。低価格帯から高価格帯のギターまで幅広く使用されています。
材質は非常に柔らかく加工が容易な為、初めてDIYでギターを作りたい方にはお勧めの材です。

バスウッド材をボディに使用したギター、ベースのモデルは下記のものがあります。

(サウンドハウス)

アルダー [ALDER]

ボディ材として使用されます。ジャンルを選ばず様々なギターに採用されています。低価格帯から高価格帯のギターまで幅広く使用されており、加工性は良いので大量生産にも向いていると言えます。

アルダー材をボディに使用したギター、ベースのモデルは下記のものがあります。

(サウンドハウス)

アッシュ [ASH]

ボディ材として使用されます。ギターのスペック表には「アッシュ」としか表記されないことが多いですが、アッシュには「ライトアッシュ」(別名:スワンプアッシュ)と「ホワイトアッシュ」との2種類があります。この2種類は産地の違いから区別されていますが、同じ樹種なので軽い材はホワイトアッシュであってもライトアッシュとして取り扱われたりします。

それぞれの特徴として、ライトアッシュは軽量で高音の抜けが良い反面、個体によっては低音域に物足りなさを感じる場合があると言われています。ホワイトアッシュは低音がクリアで音の立ち上がりも早く、全体のバランスは良いとされています。

導管が太くて杢目がはっきりしているため、杢目を活かした塗装で仕上げられる場合が多いです。
近年アッシュは原価が高騰し、バスウッドやアルダーに比べて高価な材料となっています。

アッシュ材をボディに使用したギター、ベースのモデルは下記のものがあります。

(サウンドハウス)

マホガニー [MAHOGANY]

一口にマホガニーと言ってもそこから産地や木種により様々な種類に分類されます。写真はアフリカンマホガニーです。
ネックやボディに使用されます。柔らかいサウンドが特徴的で、ギブソン系のギターに使用される傾向があり、SGタイプのボディ・ネックやレスポールタイプのネック・ボディバック材に使用されます。
ボディではトップ材にメイプルやアッシュを貼り合わせて使われることも多いです。

光の反射具合によって表情を変えるリボンストライプ(リボン杢)と呼ばれる模様が特徴です。

マホガニー材を使用したギターには下記のものがあります。

(サウンドハウス)




ホンジュラスマホガニー [HONDURAS MAHOGANY]

過去ギブソンのギターに多用されていましたが、現在ではワシントン条約により伐採・輸出が規制されて入手が困難となっています。
「ホンジュラスマホガニーこそ真のマホガニーである」というユーザーも多く、ホンジュラス産のネームバリューに価値がある為、スペック表には「ホンジュラスマホガニー」と明記されます。
現代ではホンジュラスマホガニー材を使用した購入可能なギターは高価なモデルが多く、受注生産となっている場合がほとんどです。
アフリカンマホガニーとの違いは年輪がはっきりくっきりしているところですが、中には見分けが困難なものもあります。

ホンジュラスマホガニー材を使用したギターには下記のものがあります。

(サウンドハウス)

ゼブラウッド [ZEBRA WOOD]

見た目がオシャレなゼブラウッドです。
比重が重いので、他の材に比べて完成重量は重くなります。
市販されている量産品ギターではあまりお目にかかることのない材料です。

(Frontisland“06”)

メイプル [MAPLE]

ギターのスペック表には“メイプル”とだけ表記されている場合が多いですが、メイプルはハードメイプルとソフトメイプルの2種類に分けられます。
バーズアイ、キルト、カーリー等の杢目を持つ個体もあり、杢目が無いものは「プレーンメープル」と呼び分けられています。

ハードメイプルとソフトメイプルは産地や樹種が異なります。ソフトメイプルはハードメイプルより軽く柔らかいという特徴があり、ボディのトップ材に使われることが多い材です。ハードメイプルはネック材として使用されます。

カーリーメイプル [CURLY MAPLE]

杢の入ったメイプル材です。フレイムメイプルと呼ばれたりタイガーメイプル(トラ杢)と呼ばれたり、杢の見え方で様々な呼び名があります。ボディのトップ材、ネック材、指板材と様々なところに使用されます。

見た目が美しい反面、狂いが出やすい性質を持つため、特にネックの製作には適切な乾燥と加工工程が重要となります。

ボディトップがカーリーメイプル杢のモデルは下記のものがあります。

(サウンドハウス)

キルトメイプル [QUILTED MAPLE]

平面なのに立体的な凸凹した模様が特徴です。メイプルの成長過程において何かしらの問題があり、限られた条件のものだけにたまたま現れるもので、木の病気が原因とも言われています。
カーリー同様杢目にはグレードがあり、綺麗な模様の材は高価格で取引され、ボディのトップ材等に使用されます。

キルトメイプル杢のギターには下記のものがあります。

(サウンドハウス)

バースアイメイプル [BIRDSEYE MAPLE]

バーズアイメープルはハードメイプルの中にごく稀に発生するもので、一本の木から僅かしかとれない貴重な材です。鳥の目に似た模様が集まっているのが名前の由来です。
人によっては気持ち悪い模様と感じるそうで、好みの分かれるエキゾチックな希少材です。

指板がバースアイメイプル杢のギター、ベースには下記のものがあります。

(サウンドハウス)

スポルテッドメイプル [SPALTED MAPLE]

黒いラインと2トーンの模様が特徴的なスポルテッドメイプルです。樹木の亀裂や虫穴等から雨水が染み込みカビや細菌が繁殖して模様となったものです。
写真の赤みがかった部分は健全な部分で、黒い線を境に白みがかった部分は繊維がもろく柔らかい部分となります。杢目の美しさからギターのトップ面に使用されることが多いですが、そのもろさゆえに加工や取り扱いには注意が必要です。

スポルテッドメイプル杢のギターには下記のものがあります。

 EDWARDS ( エドワーズ ) / E-MR-FR7/SP 7弦ギター
EDWARDS
E-MR-FR7/SP(7弦)

(サウンドハウス)

パドゥク [PADAUK]

鮮やかな赤褐色で、時間の経過、日焼けにより落ち着いた色味に変化します。
見た目の上品さは格別です。
エレキギターではネックのストライプ材やネックやボディの無垢材として使用されます。

加工に関して、堅い印象が強く割れやすい一面があります。初めて加工した時に「切削粉は体に良くないから吸い込まない方が良い」というアドバイスを頂いた覚えがあります。

パドゥクをネックストライプ材に用いたギターには下記のものがあります。

 SCHECTER ( シェクター ) / C-1 FR-S APOCALYPSE RED REIGN
SCHECTER
C-1 FR-S APOCALYPSE RED REIGN

(サウンドハウス)

ローズウッド [ROSEWOOD]

一口にローズウッドと言っても産地等により様々な種類に分類されます。写真はインドローズです。
主に指板材等に使われる材料です。安価なものから高価なギターまで幅広く使用されています。
世の中のギター、ベースの大半は指板がローズウッドで出来ているような気がします。
ギターには「オールローズ」というジャンルがあり、ボディからネックまで全てローズウッドで製作されたプレミアムなギター達が存在します。比重が重い為、ボディを製作する場合にはホロウ構造にする等の対策が必要です。

指板にローズウッドを使用したギターには下記のものがあります。

(サウンドハウス)

ハカランダ [BRAZILIAN ROSEWOOD]

黒いラインが特徴的なブラジリアンローズウッドです。
現在ではワシントン条約により取引に規制がかかっている為、入手が極めて困難な希少材です。




ニューハカランダ [MADAGASCAR ROSEWOOD]

ニューハカランダとはホンジュラスローズウッドやマダガスカルローズウッド等、ブラジリアンローズウッドの代用品の総称です。
入手困難となったブラジリアンローズウッドと同じような杢目の特徴を持つため、代替品として主に指板に使用されてきました。
油分が多いせいなのか、加工時にはヤニっぽい感じがします。

エボニー [EBONY]

高級モデルの指板材に使用されることが多いです。和名を黒檀(コクタン)と呼びます。
非常に硬い材料でメリハリのあるサウンドでアタック感も良好です。
乾燥がシビアで割れやすく、加工中や出荷後に割れが発生することがあります。
代替品として「リッチライト」という人工素材が登場しています。

指板にエボニーを採用したギターには下記のものがあります。

(サウンドハウス)

4.木材以外のギター材

ギターは木材で作られてきたという歴史がありますが、木材以外のギターも多く存在します。
木材の場合、同じ木種で同じギターを作ったとしても重量が違う等の個体差がどうしても生まれてしまいますが、金属や樹脂等の人工素材の場合には材料そのものの個体差があまり無い為、複数本生産しても重量やサウンドの個体差が均一に仕上がるというメリットがあります。

アルミ

トーカイのタルボはボディがアルミで製作されています。
鋳造により形成されたボディの内部は空洞となっており、ハウリング防止の為にウレタンスポンジが詰めてあります。
音の鋭さに特徴があります。木材の持つ温かみは持ち合わせていませんが、癖のない素直なサウンドでクリーンからディストーションまで綺麗に鳴る印象があります。

ボディそのものにアースシールド効果がある為、ノイズに強いというメリットがあります。

 TOKAI ( トーカイ ) / A168SH BB
TOKAI A168SH BB

(サウンドハウス)

アリウム

音響特性に優れた新素材「アリウム」で製作されたアリスティディスのギター。
指板以外のネックとボディがアリウムという合金素材で一体形成されています。
ストラディヴァリウスの音響特性を再現した優秀な素材だそうで、著名なアーティストも使用しています。

 ARISTIDES ( アリスティディス ) / 010 Classic White
ARISTIDES
010 Classic White

(サウンドハウス)

アクリル

アクリルギターは見た目のインパクトが大きいです。
透明でキャビティ内部が丸見えです。
アクリルは比重の関係から、重たいギターである可能性が高いです。
サウンドの特徴は個体によって様々で、「ばいんばいん」と、いかにもアクリル的な鳴り方のものから普通に使えるものまで様々です。

(Frontisland“05”)

5.まとめ

ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)により、昔は当たり前に流通していた木材が過剰な伐採により減少し、取引に規制がかかり入手が困難となって希少材となるものが増えています。自動車業界が脱炭素でガソリンから次世代のエネルギーへシフトするように、楽器業界でも木材以外の新たな素材へのシフトが求められる時代が来るのかもせれません。
低価格帯のギターでは杢目をプリントしたフィルムをボディ表面に貼る等の工夫により、低価格でも見た目は劣らない製品に仕上げる努力をしています。

ギターはよほどのことがない限り修理でなんとか治ります。貴重な資源を使ったギターは修理して長く使って良い物を次世代に残していってもらいたいですね。

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