Frontislandブライアンギター ピックアップ

ピックアップとは?

ピックアップとは、ギター又はベースの弦振動を電気的な信号として出力する為の重要な部品です。
エレキギターは磁石とコイルを使った『マグネティックピックアップ』というタイプのものが主流で、その他には圧電素子を用いた『ピエゾピックアップ』等があります。

このページではエレキギターに用いられるピックアップの仕組みや構造について、なるべく分かりやすいように私なりの解釈により噛み砕いた内容の解説を記載しています。本来とは違う角度で捉えているものもありますので、「このような考え方もあるのか」くらいの感覚で見ていただければと思います。

ピックアップの仕組み

ここではマグネティックピックアップの原理を簡単に解説します。

マグネティックピックアップのは磁石の周りにコイルを巻いた構造となっています。磁石の周りには磁束という磁場が存在し、ギターやベースを弾いた時の弦の振動は目に見えない磁束を揺らします。磁束が変化する時、コイルには磁束の変化を妨げる方向に電流が流れます。この現象を『電磁誘導』と呼びます。
電磁誘導は磁性体(磁石にくっつく物質)である弦が磁束を変化させることにより起きる現象です。人間の声等は直接磁束を変化させることは出来ませんので、基本的にはそれらの音をピックアップが拾うことはありません。

磁性体である弦の振動がピックアップの磁束を変化させることによって発生する電位変化が音の電気信号となります。

ピックアップ 磁束イラスト3

イラストはピックアップの磁束をイメージしたものです。
エレキギターの音の信号は弦の振動を交流の電気信号として出力しています。イラスト右側のグラフは音の信号を簡易的に表したものです。

電磁誘導によりコイルに電力が発生するのは磁束に変化が起きている時だけですので、弦が振動していないイラスト①の時には電位の変化は起きずに音の出力はありません。

弦が振動している時は②・③のイラストのように磁束の変化が周期的に繰り返され、電位が弦の動きに合わせて変化します。この電位変化の波が音の電気的な信号としてアンプ側へ出力されます。アンプは受け取った電気の波形をスピーカーの振動に置き換えることにより空気を振動させて音を出力します。

音の電気信号は上下に大きくなるほど音量が大きくなり、時間に対する波の間隔が狭くなるほど音程が高くなります。

コイル振動とハウリング

ピックアップの磁束を揺らす弦は磁石にくっつく物質(磁性体)である必要があります。ナイロン等の非磁性体ではピックアップの磁束を揺らすことは出来ません。しかし、音の電気的信号は弦が直接磁束を揺らすことにより生じるものと、弦振動がボディからピックアップに伝わりコイルのワイヤーを振動させて生じるものの2つがある為、仮に非磁性体の弦を張ったとしてもコイルそのものが振動すれば電位変化が生じて音の信号は出力されます。

ピックアップ本体の振動による信号生成感度が良いピックアップはハウリングが起きやすい傾向にあります。
このようなピックアップに対しては、コイルの隙間にワックスを含浸させてワイヤーの動きを抑制する『含浸処理』を行うことでハウリングを抑えることが出来ます。
世の中には含浸処理されたピックアップとそうで無いものとがありますので、処理されていないピックアップのハウリング対策には含浸処理が有効です。

音の違い

マグネティックピックアップは磁石とコイルによって音の信号が作られるわけですが、磁石の種類(磁力の強さ)やコイルの巻き数・形状によって作られる信号の特性が変わります。例えばコイルの場合、縦長に巻くと高音特性が良く、横長に巻くと低音特性が良くなる傾向になります。
磁石の種類や形状、コイルの長さや巻き方の違い等がサウンドに違いを生み出しています。

ハムバッカーのノイズキャンセルの原理

ハムバッキング構造として有名なハムバッカーはノイズが少ないのが特徴のピックアップです。ノイズの影響を受けにくいのではなく、受けたノイズ信号を2つのコイルで打ち消しています。

ピックアップで生成されるノイズの信号は、弦が磁束を揺らすことで生成する音の信号の作られ方とは仕組みが違います。
ノイズは弦のように磁束を変形させるのではなく、コイルから直接侵入して電気的な信号になります。では、一旦磁束のことは忘れてノイズの信号について見てみましょう。

ハムバッカー ノイズの図

ハムバッカーは2つのコイルを持っていますが、それぞれのコイルは巻き方向を逆にしています。これはコイルの巻き方向によって発生する電流の流れる方向が変わるという性質を利用したもので、同一方向から飛んできたノイズで生成される信号の波形はA-A’間とB-B’間とで逆向き(逆位相)となります。この真逆の信号同士を合わせることでお互いの信号の打ち消し合いを起こさせてノイズレベルを0に近づけるというのがハムバッカーのノイズキャンセルの仕組みです。

実音とノイズの波形

片方のコイルを逆巻きにしただけでは、弦が生み出す音の信号も打ち消し合いが起きてしまいます。
なので、コイルの巻き方向を変えて位相が180度反転したコイルに対し、磁界の向きを変えることで位相をもう180度反転させます。片方のコイルはN極が弦側、もう片方はS極が弦側となった状態です。磁界の向きはノイズ波に影響しないので、弦信号のみが一周回って元に戻った正位相の信号となります。

2つのコイルを直列に接続すると、弦信号はお互いを掛け合わせたパワフルなものが出力され、ノイズは打ち消し合われて目立たないというハムバッカーらしいサウンドが出力されます。

スタックタイプ

2つのコイルでノイズを相殺する構造のピックアップはハムバッカー以外にも存在し、その中の一つとして2段構造で上下に2つのコイルを持ったピックアップがあります。
ノイズキャンセルの原理はハムバッカーと同じく2つのコイルの巻き方向を逆にしてノイズを相殺させる仕組みです。
シングルコイルのサウンドテイストでノイズを抑えるというコンセプトのものが多く、下側のコイルにはポールピースが無い(磁束を持たせていない)ものもあります。
スタックタイプのピックアップはイングヴェイ・マルムスティーンモデルのダンカンYJM FuryやディマジオのHS-3(DP117)が有名ですが、テレキャスタータイプのものやP90タイプのものまで、様々なものが存在します。

スプリットタイプ(デュアルコイル)

1つのコイルで全ての弦をカバーするのではなく、複数のコイルを横に並べて使用するタイプのピックアップです。
ハムバッカーと同じノイズキャンセルの原理を利用し、片側のコイルを逆コイル巻き逆磁界としてノイズをキャンセルします。
スプリットタイプで代表的なピックアップはプレベのピックアップですが、こちらのピックアップのように完全セパレートのものは、ノイズ対策の他に各弦に対するピックアップの高さ調整がより細かく行えるというメリットもあります。

完全セパレートでないモデルにはバルトリーニの9CBJD-L1等があります。シングルコイルと見た目は同じですが、1・2弦と3・4弦でコイルを分割した構造となっています。

アクティブピックアップ

電源を必要とするプリアンプを持つピックアップをアクティブピックアップと言います。アクティブではないピックアップはパッシブピックアップです。

プリアンプは信号の増幅や音質の調整を行う回路装置のことで、その作動には電源が必要となります。なので、アクティブタイプのピックアップを搭載したギターやベースにはバッテリーが搭載されます。電池の管理には手間がかかりますが、その手間を上回るメリットを多く持つピックアップです。

ピックアップの磁力が弦の振幅を阻害しにくい

ギターの弦とピックアップを近づけすぎると、ピックアップの磁力で弦がピックアップに吸い寄せられて弦がキレイに振幅しなくなります。しかし、例えばEMGの場合には一般的なパッシブピックアップに比べてピックアップ表面の磁力が弱いので弦振動の阻害が起きにくいというメリットがあります。磁力が弱く出力が小さくてもプリアンプで信号を増幅出来るのでこのようなことが可能となります。

安定した音質

パッシブとアクティブではインピータンス(交流回路の電流と電圧の比)が違い、パッシブがハイインピータンス、アクティブはローインピータンスとなります。
ローインピータンスの信号はハイインピータンスの信号と比べて音質が劣化しにくいという特性を持っています。(プリアンプで信号が強化されるイメージです。)

長いシールドケーブルを使うとシールド自体が抵抗となって信号が流れ難くなります。
パッシブの場合はピックアップの信号が微弱な為、長いシールドの抵抗に負けて高音域が劣化するという現象が起きますが、アクティブの場合には強化された信号がシールドの抵抗の影響を受けにくいので長いシールドであっても高音域の劣化は起き難くなります。なので、長いケーブルを使いたいけど高音域は劣化してほしくないという方にはアクティブがお勧めです。

フィッシュマンの一部のモデルはHFT (High Frequency Tilt) という長いケーブルを使った時の高音域の劣化を再現するモードを備えており、アクティブの長所を持たせながらパッシブの雰囲気も楽しめる仕様となっています。

ノイズが少ない

アクティブはどうしてノイズが少ないのか?調べてみたけどいまいちよく分からないという私のような人向けに、一般的な解説とは別の角度からその仕組みについて探ってみましょう。

EMG-ノイズレス 回路解説5

イラストは1ボリュームのアクティブピックアップのコントロール配線で、信号の流れをイメージ化したものです。
中心に描かれているのがボリュームポットです。裏から見た状態なので今はボリューム全開です。②の端子から出力される信号がアンプから出力されます。

パッシブタイプのギターのボリュームポットは一般的に抵抗値250kΩ〜500kΩのものが使用されます。この抵抗値というのは端子①と③の間の電気の流れ難さであり、数値が大きいほど信号は流れ難くなります。①と③は抵抗を隔てて常に繋がっている為、ボリューム全開の状態であっても③に入力された信号は①へ逃がされ、その量は抵抗値で決まるということです。

アクティブの場合は25kΩ〜50kΩの抵抗値のポットを使用します。パッシブの回路と比べて信号Aから①へ逃がされる信号量が多くなるわけですが、ローインピータンスの信号は信号ロスによる音質劣化が起きにくい為、ピックアップの音質を維持したまま不必要なノイズの信号を多量に①へ逃すことが可能となります。

ノイズ信号が逃がされるのは信号Aのラインだけでなく信号Bのラインからギターとアンプを繋ぐシールドまで、ポットを介して繋がっている全てのラインのノイズが①へ逃がされる為、全体のノイズが少なくなります。

以上、私の場合はアクティブのローノイズの原理をこのようなイメージで捉えています。

ピックアップのノイズシールド

ピックアップのノイズ対策の一つとして、ピックアップに金属製のカバーを取り付けるという方法があります。
ピックアップに降り注ぐノイズを金属製カバーでシャットアウトします。このとき、金属製カバーをコールド側に電気的に接続しなければノイズシールド効果は発揮されません。

通電性の無いプラスチックのカバーではノイズを防ぐことは出来ませんが、炭素が練り込まれた通電性のプラスチック素材であったり、金属箔や導電塗料でカバーの内側がアース処理されたものであればノイズシールドの効果は有効です。

ピックアップカバーを付けた状態と付けていない状態では出力されるサウンドは違います。
どちらの音が良いというのはありませんし、場合によっては違いが感じられないレベルの違いかもしれませんが、良くも悪くも音質が変わるかもしれないということは念頭に置いておいた方が良いと思います。

テレキャスターのフロントピックアップやリップスティックタイプのピックアップは金属製のカバーが採用されています。
このような金属製(通電性)のカバーを備えたピックアップは、カバーの無いものに比べてノイズの影響を受けにくい傾向にあります。

ピエゾピックアップ

ピエゾとは圧電素子のことで、振動(圧力)によって生じる力を電圧に変える素子です。
マグネティックピックアップとは違い、振動のエネルギーを音の電気的信号に変えるので弦が磁性体である必要はありません。

アコースティックギターにはピエゾピックアップが用いられることが多く、アコースティックギター用のピエゾピックアップにはボディ内部に貼り付けるコンタクトタイプやブリッジサドル下に内蔵するインブリッジタイプ等があります。

ピエゾピックアップは音質や音量を補正するためにプリアンプと併せて使用されることが多いです。

エレキ用ピエゾピックアップ

エレキにピエゾを載せるとアコースティックギターのようなサウンドの出力が可能となります。

エレキ用のピエゾピックアップはブリッジサドルに内蔵されたものが多く、ブリッジサドルの交換又はブリッジユニットの交換が必要です。サドルからは個別に出力線が伸びている為、場合によってはブリッジ本体に配線逃し加工が必要となります。

エレキにピエゾを載せる場合にもプリアンプと併せて使用することが推奨されます。
既存のギターにピエゾキットを組み込む場合にはプリアンプとバッテリーを収納するスペースを確保する必要がある他、ピエゾとマグネットの切り替えスイッチやボリュームのコントロールを増設する等の大掛かりな作業が必要となります。

まとめ

ピックアップは構造自体は単純なものの、色々な電気的現象や法則を利用して電気的な音の信号を作り出しています。

ピックアップを交換することでギターのサウンド特性を変えることが出来ますが、自分のギターとの相性が良いか悪いかは載せ替えてみないと分かりません。どんなに良いピックアップでもギター本体との相性が悪ければ良い音が出ないというところがピックアップ選びの難しいところでもあり楽しいポイントでもあります。

ピックアップを交換して、音をどう変えたいか?
弾き心地はどうしたいか?

ピックアップ交換はワクワクです。

関連記事