ピックアップは音の信号を作り出す原点であり、エレキギターにとって重要なパーツです。
ピックアップは材質や構造で出力されるサウンドが異なる為、サウンド特性の異なるピックアップに交換することでギターのサウンドキャラクターを劇的に変化させることが出来ます。
ピックアップは交換前提でギターを見た目で選んで購入するという方も少なくありません。
ピックアップからはホットとアースへ繋ぐ線が出ています。このページでは、どちらをどちらへ繋げば良いのか見分ける方法について解説していきます。
位相(フェイズ)とは
一般的なピックアップは1つのボビンからリード線が2本出ています。その線には+と-の方向性があります。
ピックアップは小さな発電機です。弦がピックアップの上を行ったり来たりすることで+と-の交流電流が発生します。
弦が行った時に+になるのか-になるのかはピックアップからの出力線のホットとアースへの接続方向で変わります。
イラストは配線Ⓐ・Ⓑと、出力される電気信号の波形(位相)を表しています。
Ⓐは赤い線をジャックのホット端子へ接続し、緑の線をジャックのアース端子へ接続しています。
Ⓐは弦の振動↑↓↑↓に対して↑↓↑↓(ピンク色の波形)となります。
ⒷはⒶと逆で、赤い線はアース端子へ、緑はホット端子へ接続しています。
Ⓑは弦の振動↑↓↑↓に対し、Ⓐとは逆の↓↑↓↑(青色の出力波形)となります。
ⒶとⒷを比較すると、同じ弦の振動方向でも、ピックアップの線を逆に繋ぐと出力波形は逆になることが分かります。
つまり、Ⓐの位相とⒷの位相は逆であるということです。
ⒶとⒷのように単体で信号を出力した場合においてはどちらも正しい接続方法であり、どちらが良いとか悪いとかはありません。
ただし、複数のピックアップを同時出力する場合にはⒶ+Ⓐ又はⒷ+Ⓑとなるように位相をどちらかに統一して配線を組むのが一般的です。
Ⓐ+Ⓑのように2つのボビンの片方を逆位相接続して同時に鳴らした場合、直列・並列配線のどちらの場合においても正の波形と負の波形の信号がぶつかり合ってお互いを打ち消し合ってしまいます。ただし、別々のボビンから出力された2つの信号の波形は全く同じではないので完全に打ち消し合うことはなく、残った音の信号が細いサウンドとなって出力されます。この時のサウンドをフェイズサウンド(フェイズアウトサウンド)と言います。
一般的なピックアップは1つのボビンからリード線が2本出ています。その線には+と-の方向性があります。
ピックアップは小さな発電機です。弦がピックアップの上を行ったり来たりすることで+と-の交流電流が発生します。
弦が行った時に+になるのか、来た時に+になるのかはピックアップからの出力線のホットとアースへの接続方向で変わります。
上のイラストはSSHの配線コントロールです。フロント、センターに対してリアのピックアップの位相が逆に接続されています。
この場合、フロントとリアのハーフトーンポジションの出力はフェイズサウンドが出力されます。
リアピックアップを単体で鳴らす場合は位相の干渉が起きない為、通常のハムバッキングサウンドが出力されます。
ここで勘違いしてはいけないのが、フェイズアウト配線はダメな配線方法ではないということです。
上記コントロール配線図も、そういう仕様として組んでいるのであれば問題ありません。
フェンダーのムスタングやブライアンメイのレッドスペシャルではスイッチの切替えによりフェイズサウンドの出力が可能となっています。
一般的なギターの多くは位相を合わせてコントロールが組んであるのでフェイズサウンドが出ない仕様となっていますが、コントロールの改造で意図的に出力させることも可能です。
位相の確認方法
位相の確認にはアナログテスターとドライバーを使用します。(私はテスターのテスト棒をクリップタイプに交換しています。)
今回は例として、テレキャスターのフロントピックアップをテストしていきます。
テスターは抵抗値計測モード(Ωのマークの所)に設定します。
ピクアップのリード線とテスト棒の+と-を写真のように接続すると、テスターはピクアップの抵抗値を示します。
この状態になったら準備完了です。
この状態でピックアップにドライバーを近づけたり離したりすると、その動きに連動して抵抗値が増えたり減ったりしてテスターの針が右か左のどちらかの方向へ動きます。
近づけた時と離した時では針の振れる方向が逆になります。
私はドライバーを近づけた時を基準としています。ドライバーを近づけた時に針が右に振れたらテスターのプラスに繋がっているピックアップリード線をプラス線とし、左に振れた場合はテスターのプラスに繋がっているピックアップリード線はマイナス線とします。
今回のピックアップでは針は左方向へ振れました。
この場合、白リード線がマイナス線で黒リード線がプラス線ということになります。
マイナス線をホットへ出力させ、プラス線をアースへ接続する場合はマイナス位相と呼び、その逆はプラス位相と呼んでいます。(この呼び方は私が勝手にそう言っているだけなので世界共通ではありません。)
位相を合わせるという事は混載する全てのピックアップの配線接続をプラス位相又はマイナス位相のどちらかに統一するということを指しています。統一されていればどちらでも問題ありません。
ここで一つ確認すべきポイントがあります。アース線です。
リード線がピクアップカバーやベースプレートのアース線を兼ねている場合には、そちらの線をアース線として設定する必要があります。
ハムバッカータイプに多い1芯網シールド線のように、見た目で判断できるものは判別が簡単です。このテレキャスターピクアップはリード線が2本出ていますが、ピックアップ裏を確認すると黒い線とカバーが結線されています。金属製のピクアップカバーは外部からのノイズを吸収するシールドの役割を持っています。シールドが吸収したノイズはアースへ落とす必要がある為、ピックアップカバーと結線された黒い線をアースへの接続線とし、白い線をホットの出力線とします。
なので、このピックアップはマイナス位相のピックアップだということが分かります。
ピックアップ配線を組んでみよう
今回はHSHのピックアップレイアウトを仮定して下記の配線を組むこととします。
ピックアップは下記のものを使用します。
フロント:ディマジオ TONE ZONE
センター:テレキャスターピックアップ
リア :ダンカン JB
センターピックアップは上記内容からマイナス位相という事が分かりましたので、ディマジオとダンカンの位相をマイナス位相に設定します。まずはダンカンから。
ダンカンのピックアップには配線図が付属されており、黒がホット、赤白結線、緑がアースへの接続表記となっています。
なので、赤白を結線し、黒をテスターのプラスへ繋ぎ、緑をテスターのマイナスへ繋ぎます。
この状態でテレキャスのピックアップの時と同様、ドライバーをピックアップ上面にくっつけます。
テスターの針は右方向へ振れました。テレキャスと逆のプラス位相です。
テレキャスのピックアップと位相を合わせる為にはダンカンの黒と緑の接続を入れ替えて位相を反転させる必要があるということが分かりました。
配線図が無い場合の4芯ハムバッカ―配線確認方法
配線図が無い状態を仮定してディマジオのピックアップの配線割振りを確認していきます。
まず、裸線を除くピックアップから出ている赤・緑・黒・白の4本の線の判別を行います。
裸線はピックアップのベースプレートとリード線のシールドに繋がるアース線ですのでアースへ繋ぎます。
テスターは位相の確認の時と同じく抵抗値計測モード(Ωのマークの所)に設定します。
どの線でも良いのですが、テスターのプラスに赤い線を繋いでおき、残りの線を順番にテスターのマイナス線に繋いでいきます。
黒い線で針が動いて抵抗値を表しましたので、赤と黒がどちらかの同じボビンの線だということが分かりました。
この時点で残った白と緑の線はもう片方のボビンの線ということも確定します。
次にボビンの特定をします。位相の確認とやることは同じで、それぞれのボビン上面にドライバーの金属部分を着けたり離したりします。反応がある方(針の振れが大きい方)が赤と黒の線のボビンということになります。そして、ドライバーを近づけた時に針がどちらに振れるかを見て位相の確認も行い、ドライバーを近づけた(くっつけた)時に針が右に振れたらテスターのプラスに繋がっているピックアップリード線をプラス線とし、左に振れた場合はテスターのプラスに繋がっているピックアップリード線はマイナス線とします。
ディマジオの配線判別結果
ディマジオのピックアップをテストするとイラスト上段のような配線振り分けとなります。
マイナス位相のピックアップと合わせる為にはマイナスをホットへ接続する必要があります。
2つのボビンを直列配線した場合、マイナス位相の配線方法は2通りあります。
①ホット:緑(-)
アース:赤(+)・裸線
結 線:黒(-)・白(+)
②ホット:黒(-)
アース:白(+)・裸線
結 線:赤(+)・緑(-)
どちららの接続方法でも出力させるサウンドは同じです。タップスイッチを付けない場合はどちらの接続方法でも構いません。
今回は①番で組みます。
センターのテレキャスターピックアップに位相を合わせた配線の場合、リード線の配置は下記の配線図の色分けとなりました。
ホットへの接続がマイナスで統一され、アースへの接続がプラスで統一されたマイナス位相の配線が完成しました。
このように、ピックアップの位相の設定はメーカーによって違う為、ピクアップに付属された配線図のまま配線を組んでも位相が合うとは限りません。また、リード線の色の振り分けもメーカーによって違う為、配線を組む場合にはテスターによる確認が必要です。
今回の場合はテレキャスターの位相にディマジオとダンカンを合わせましたが、逆にテレキャスの位相を反転させることも出来ます。ただし、その場合にはピクアップカバーのアース線を黒のリード線から白のリード線へ繋ぎ直す加工が必要となります。
メーカー別 4芯ピックアップ配線図
メーカー別ハムバッキングピックアップの配線図を一部掲載します。
上段にボビンから出力されるリード線カラーと極性を記載し、下段にはメーカーの配線図に掲載されている配線例を載せています。
ここに掲載しているピックアップの配線カラー配置振り分けのデータは手持ちのピックアップをもとにリード線の判別を行った結果であり、メーカーが公表している物ではありません。モデルや生産ロットによってピックアップの配線カラー配置が変わる可能性があることをご了承下さい。
Seymour Duncan
プラス位相配線
①ホット:黒(+)
アース:緑(-)・裸線
結 線:赤(+)・白(-)
②ホット:赤(+)
アース:白(-)・裸線
結 線:黒(+)・緑(-)
マイナス位相配線
①ホット:緑(-)
アース:赤(+)・裸線
結 線:黒(-)・白(+)
②ホット:黒(-)
アース:白(+)・裸線
結 線:緑(-)・赤(+)
DIMARZIO
プラス位相配線
①ホット:赤(+)
アース:緑(-)・裸線
結 線:白(+)・黒(-)
②ホット:白(+)
アース:黒(-)・裸線
結 線:赤(+)・緑(-)
マイナス位相配線
①ホット:緑(-)
アース:赤(+)・裸線
結 線:黒(-)・白(+)
②ホット:黒(-)
アース:白(+)・裸線
結 線:緑(-)・赤(+)
SUHR
イラストはフロントSSVとリアSSV+をテストしたものです。
リアピックアップの配線カラーの割り振りはダンカンと同じです。
プラス位相配線
①ホット:黒(+)
アース:緑(-)・裸線
結 線:赤(+)・白(-)
②ホット:赤(+)
アース:白(-)・裸線
結 線:黒(+)・緑(-)
マイナス位相配線
①ホット:緑(-)
アース:赤(+)・裸線
結 線:黒(-)・白(+)
②ホット:黒(-)
アース:白(+)・裸線
結 線:緑(-)・赤(+)
リード線パターン
ハムバッカーのリード線には幾つかパターンがあります。
基本は各ボビンの+-とアース線で5本の接点が存在します。メーカーやモデルによって出力線の本数や役割の配置は異なります。
①~③はどちらの位相にも対応出来るリード線です。
④と⑤はベースプレートアース線と緑の出力線が結線されている為、位相がどちらかに固定されます。
③と④は出力線本数は同じ3本ですが役割が違います。3本の役割はテスターにて確認することが出来ます。
テスターにて、3本それぞれの線間の抵抗値を計測します。全てにおいて抵抗値があった場合は④のリード線パターンです。抵抗値が一番大きな組み合わせが赤と緑のリード線となります(水色の線はタップ線です)
③の灰色線はどの線とテストしてもテスターの針は動きません(∞Ωのまま)ですが、ベースプレートとの抵抗値を計測すると0Ωを指します。
イラスト以外にもパターンはあると思いますが、テスターで調べれば各線の役割は特定が可能です。
まとめ
フェイズサウンドは同位相(イン・フェイズ)のピックアップ2つのうちの片方のピックアップの位相を反転(アウト・フェイズ)させて同時に出力することにより出力が可能です。また、2つのボビンを備えたハムバッキングピックアップでは片方のボビンの位相を反転させればピックアップ単体でのフェイズサウンドの出力が可能です。
ピックアップはメーカーによって標準としているピックアップの位相が異なります。
ピックアップ交換時に配線図に記載された通りに配線しても位相の設定が違えば位相は合いません。ピックアップを1つだけ交換する場合や、異なる種類のピックアップを組み合わせて配線を組む場合にはテスターで確認を行うことで位相を合わせた配線が可能です。