ギターの調整の一つにネックの反りの調整(トラスロッド調整)があります。
ネックの反りを調整することで弾き易くなるだけでなく、場合によっては音も良くなります。

このページではネックの反りの見方と調整方法について解説していこうと思います。

トラスロッドとは


トラスロッド Two Way(460mm)
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トラスロッドとは、ネックの反りを調整する為にネックに埋め込まれた金属のシャフトの事で「鉄芯」と呼ばれます。

伝統的な鉄心からダブル鉄芯タイプまで色々な構造のものがあります。

一般的なトラスロッドは順反り方向にしか力を掛けることは出来ませんが、順反りと逆反りの両方に力を掛けることのできる両効きタイプも存在します。

トラスロッドの仕組み

ロラスロッドには幾つか種類があります。

伝統的なトラスロッドは1本の鉄芯からなるものです。

ロッドの端が固定されており、アジャストネジによりロッドを引っ張ることで反りを調整する仕組みです。

トラスロッドの仕組み

片側を固定したヒモを引っ張るとヒモは真っすぐな状態に伸びようとし、たるんだ部分が上へ持ちあがります。
これがロッド調整の原理です。トラスロッドは湾曲した状態でネックに隙間なく埋め込まれています。真っすぐに伸びようとするトラスロッドが指板側の湾曲面を押すことでネックが逆ぞり方向へ曲がります。個体差はありますが、一番力の掛かる部分は7~9フレット辺りのものが多いです。

トラスロッドはその構造上、0フレットから最終フレットまで均一に反りを変化させるわけではありません。特に指板エンド周辺はロッドの影響を受けません。

ネックの反りのパターン

ネックの反りの状態の基本パターン3つとその他状態を紹介します。

Neck-warp

①順ぞり

弦の張力方向にネックが起き上がっている状態です。

過度な順反り状態では①の図のように弦が指板から離れる状態となります。
ネックの反りを調整しないまま弦高のみ調整を行った場合、ブリッジ又はブリッジ駒の下方向への可動域が足りずにセッティングが出ないという現象が起きる場合があります。

中~後半のフレットポジション域で弦のビビリが目立つ場合には順ぞり方向にネックが動いている可能性があります。ビビリが起きない程度に弦高を上げる必要があり、全域で弦高の高いセッティングとなります。

ロッドアジャスターを締めることで改善される場合があります。

②ストレート

弦の張力とトラスロッドの張力のバランスがとれた状態です。

理想的な反りの状態は“ストレートに近い若干の順反り”とされています。

③逆反り

弦の張力方向とは反対にネックが反り返っている状態です。

過度な逆反り状態では③の図のように弦が指板に近づく状態となります。
ネックの反りを調整しないまま弦高のみ調整を行った場合、ブリッジ又はブリッジ駒の上方向への可動域が足りずにセッティングが出ないという現象が起きる場合があります。

演奏上の問題として、ローフレットポジション域でビリつきが起き易い状態となります。なので、ビビリが起きない程度に弦高を上げる必要があり、ハイフレットの弦高が高いセッティングとなります。

ロッドアジャスターを緩めることで改善される場合があります。

④その他

上の3つが主な状態ですが、複合的な下記のパターンもあります。

ねじれ

1弦側と6弦側とで反りの状態が違うパターンです。
トラスロッドの調整では対応できない過度なねじれ状態の場合にはフレット調整や指板調整が必要となります。

波打ち

ネック全体に順反りと逆反りが混在し、S時状に波打っているパターンです。
波打ちの要因は幾つかパターンがありますが、ロッドの効くポイントが本来の位置からズレて発生している場合は対処が厄介です。

ハイ起き

指板全体はストレート状態で、ネックエンドが極端に起き上がってしまっている状態です。

ハイフレット手前辺りでビリつきが出やすい傾向にあります。
対処法としては弦高を上げることですが、症状が重い場合にはフレットの擦り合わせや指板調整での対応が必要です。

逆に指板エンドに向かって指板やフレット頂点が下がっているパターンもありますが、異常な下がり具合でなければ正常な状態です。






ロッド調整の必要性

自分の理想の弦高まで弦の高さを下げられない場合において、トラスロッドの調整で状況の改善が見込める場合にはロッドの調整が有効です。

著しい順反りでは中盤~ハイフレットにかけてビビリが生じやすく、著しい逆反りではローフレット~中盤のフレットにかけてビビリが生じやすくなる為、どちらの場合も弦高を高めに設定しなくてはなりません。トラスロッドを調整し、フレットと弦とのクリアランスが全域でバランスの良い状態になることで弦高を下げてもビビリが生じるポイントが出にくいセッティングを行うことが出来ます。

木材で出来たネックは季節の変化による空気の乾燥等の影響によって反り具合が変化します。
ギターの個体差で反りの変化量は違いますが、弦高低めのシビアなセッティングを行うギターで反りの変化が起き易いものについては頻繁なロッド調整が必要です。ただし、反りの変化が起きにくいネックは年中調整の必要がなく、ギターを手にしてから何年も経つけれども一度も調整していないというケースもあります。

ネックの反りの変化は安いギターだから起き易いとか高いギターだから起きにくいという事は無く、どのギターやベースも定期的な確認と調整を行うことが良いコンディションを保つためには必要です。

調整箇所とアジャスターの種類

トラスロッドはネックヘッド側にアジャスターがあるものがあればエンド側にあるものもあります。
ギターの仕様等により異なりますが、機能は同じです。

調整位置

ヘッドナットタイプ


調整アジャスターがヘッド側にあるタイプです。
弦を張ったまま調整出来るという特徴があります。

ヘッド側トラスロッドナット

ネックエンドタイプ


ネックエンド側に調整アジャスターがあるタイプです。
ボルトオンタイプでアジャスターがネックポケットに隠れている場合にはネックを取り外す必要があります。

ホイールナット

ネックエンド側にアジャストがある場合でも弦を張ったままネックの反りの調整を行うことが出来ます。
ヘッド周りがスッキリするのでロックナットを搭載したギターとの相性が良いです。
追加加工により既製品への取付が可能な場合があります。

ESP ( イーエスピー ) / Truss rod wheel nut Truss rod wheel nut
(サウンドハウス)

サイドアジャスター

ネックのヒールサイドで微調整を行う機構です。
ネックエンドにアジャスターが付くタイプのネックヒールサイドに補助アジャスター的な役割として設置されたものです。
ネックを外さなくてもロッドの調整が可能です。

トラスロッドサイドアジャスター

GOTOH社製のSATというアジャストシステムです。
SAT-1は1Pネック・AST-2は貼指板向けとなっています。

写真はSAT-2のカバーを外してセットした状態です。
ロッドの調整はネックのエンド側とネックサイドの2ヶ所で行いますが、ネックをセットした後はサイドのナット(写真B)で調整を行います。

GOTOH-SAT-2

ロッド調整ツール

レンチにはインチとミリサイズが存在します。規格の合わないレンチサイズを使用した場合、ネジなめによりロッドの調整が出来なくなる等のトラブルに繋がりますので注意が必要です。調整にはギター購入時に付属されているレンチと同規格のサイズを使用します。
※ロッドカバーが付いている場合やネックを外す場合には下記以外にも工具が必要となります。

マイナスドライバー

十字ナットにはマイナスドライバーを使用します。
十字ナットを十字ドライバーで調整するとネジ山が潰れることがあります。

 CRUZTOOLS ( クルーズツールス ) / GrooveTech Standard Truss Rod Driver
トラスロッド調整専用
マイナスドライバー

(サウンドハウス)

六角レンチ

六角穴ナットに使用します。
レンチ先端の形状にはストレートエンドタイプとボールエンドタイプの2種類があります。
ボールエンドタイプは六角穴に対して斜めに掛けることが出来トルクます。トルクの要らないナットの脱着に向いています。
ストレートエンドはボールエンドタイプのようなフレキシブルさはありませんが、六角穴の内壁に接する面がボールエンドよりも多い為、なめにくいです。
サイズの規格はミリとインチがあります。

 BONDHUS ( ボンダス ) / 9HT5MM 六角5㎜ストレートレンチ
(ミリ規格)
 BONDHUS ( ボンダス ) / 9HT4MM 六角4㎜ストレートレンチ
(ミリ規格)

(サウンドハウス)

パイプレンチ

六角ナットに使用します。
インチ規格とミリ規格があり、それぞれ ナットサイズにも種類があります。

 SCUD ( スカッド ) / WRE-7.0
パイプレンチ 7㎜
(ミリ規格)

  MONTREUX ( モントルー ) / Inch Box Wrench 5/16
パイプレンチ 5/16″
(インチ規格)

(サウンドハウス)

反りの確認方法

ネックの反りの確認方法で一番簡単な方法を紹介します。

①反りの確認を行う前にチューニングを合わせます。
※弦の張力でネックの反りの状態は変わるからです。

②演奏する時と同じように座ってギターを構えます。
※テーブルや台の上に楽器を寝かした状態では重力の影響で反りの状態が変わるので正確な状態の把握は出来ません。

③左手で1弦1フレットを押さえます。
※左利きの方は逆になります。

④右手の一指し指で1弦7〜12フレットを押さえて右手の小指で1弦のハイフレット(届く所)を押さえます。

⑤7弦とフレットとの隙間がどれくらいか確認します。右手の一指し指を弦から離したり抑えたりして弦がどの程度動くかを見ます。

⑥隙間が大きく空いている場合には順ぞり状態です。隙間が全くない場合はストレートか逆反りの状態です。

ネック反り見方

なぜ7〜12フレットで確認するかというと、大半のギター(ベース)はネックの一番動くポイントが7~12フレット辺りになるからです。フレット数やネックグリップ長等の条件により変わりますが、7~12フレット辺りの状態を確認することで①~③の状態において①の順反りか、それ以外かの判別が出来ます。

1弦の確認が終わったら6弦での確認を行います。

7フレット周辺の確認が終わったら同じ要領でローフレット側やハイフレット側を見ます。左手で弦を押さえているポイントと右手の小指で弦を押さえているポイントの間が順反りなのか逆ぞりなのかを見ます。慣れてくれば波打ちやねじれの判断がつくようになります。

この方法で7フレットと弦とのクリアランスがどの程度あれば正解とすればよいかは楽器の個体によって違いますが、現状で自分好みのセッティングが出せているのであればクリアランス値がどうであれ問題は無く、調整の必要はありません。
全域で弦高を極力下げたい場合には0.1~0.5㎜の範囲を目安に調整します。

ロッド調整の方法

ネックを外さなくても調整出来るものは弦を緩めずに調整して構いませんが、弦のテンションが掛かった状態だとロッドの感触が分かり辛い為、慣れないうちは弦を緩めた方が良いです。

ネックを外さないと調整出来ない場合は一度弦とネックを外す必要があります。弦を外したネックは弦の張力が無い為、大半の物は逆反り状態になります。どれくらい回せばよいか分からないかもしれませんが、始めは30度~45度程度アジャスターを回して組んでチューニングをして状態を確認し、反りが合うまで同じ作業を繰り返す感じで行うと合わせやすいと思います。

順反り方向にアジャスターを締めた時に硬くて回らない場合には無理に回さないで下さい。

ロッドの調整

順反りの場合

ロッドのアジャスターを時計回りに締めていき、上記確認方法で7フレットと1,6弦とのクリアランスが0.5㎜以下になるように調整します。クリアランスが全く無い状態は締めすぎ(逆反り)と判断します。締めすぎた場合は遊びを無くす為に一旦大きく緩めた後、再度ロッドを効かせながら合わせます。

逆反りの場合

逆反りの場合は反時計回りに一旦大きく緩めた後、時計回しにアジャスターを回してロッドを効かせながら反りを合わせます。

ハイ起きの場合

極力ネックを直線に近い状態とすることでハイ起きによるビビリは解消方向に向かいます。
全体のバランスをみて調整します。

ねじれ、波打ちの場合

全体のバランスをみて調整します。
上手く調整出来ない場合には信頼できるリペアショップへご相談下さい。

調整の注意点

ロッド調整で大切なことは無理をしないことです。
無理な作業はロッドの機構を壊してしまいます。

何かしらの要因でロッドの可動域が本来必要な範囲に満たない場合、順反りが足りないからといって無理やりアジャスタを回そうとするとロッド折れやネジがバカになる等のトラブルに繋がります。ロッドが全く効いていない状態になると著しい順ぞり状態となり、調整前よりも状態が悪くなってしまいます。修理も簡単ではない為、時間や費用がかかります。

作業時に違和感がある場合は無理はせずにリペアショップへ相談することをお勧めします。

トラスロッド調整は弦高セッティングの前段階で行う基準のセッティングです。

まとめ

ロッド調整を正しく行うことで弦高のセッティングが正しく行えるようになります。

何度も書きますが、ロッド調整で大切なことは無理をしないことです。

ロッド調整の方法や基準値は諸説あります。ギターの個体差で一本一本調整の仕方が変わる為、正解は一つではないからです。ここに書いてあることが必ずしも全てのギターに当てはまるかと言うと100%ではありません。ここ以外でも色んな情報を参考にして自分のギターに合うという確信の持てるセッティングを選択してください。

調整の方法や、自分のギターの状態に合った調整が分からない場合にはリペアショップへ相談しましょう。